ポニポニピープル Dialogue 001 竹本直樹 (3/6)

モヤモヤと発見の応酬
~市営住宅リロケーションプロジェクト〜

鶴岡章吾 市営住宅での事業について、具体的に教えてください。

竹本直樹 大牟田市介護予防活動支援事業といいます。期間は3年間にわたりました。市営住宅の建て替えに際して、福祉的な観点から住民の方にどのように寄り添うことができるのかが課題でした。法人所在地の小学校区で、介護予防のまち作りを推進し、支援するという事業で、市営高泉住宅は私たちが担当する校区にあったのです。大牟田市の長寿社会推進課から委託を受けた私たちの法人と、建築住宅課から建て替えに伴った新しい自治会の設立依頼を受けた有明高専とが、共同して事業を始めました。そしてポニポニも、関わっていたのです。

鶴岡章吾 大牟田市や有明高専も関わり、大きな枠組みですね。

竹本直樹 そうです。各団体がそれぞれ異なる目的を持った事業を進めていました。

鶴岡章吾 事業のスタートは、いつでしたか?

竹本直樹 2018年です。2年前の2016年に熊本震災があり、災害に敏感になってる時期でした。最初の1年間は、校区ごとに防災についてのサロンや講座を開きました。1年後に、菅原さんから有明高専の正木先生たちを紹介していただいて、一緒にやらないか、と声をかけていただきました。そして2019年から、建築住宅課の担当者と正木先生たちと一緒に、事業を進めました。2020年で事業は完了し、その後は自己資金で運営しています。団地の建て替えは完了して、2023年の7月には引っ越しも完了しています。

鶴岡章吾 市営高泉住宅の住民は、高齢の方が多いと思います。その方々の引越しにともなって、心のケアと生活のサポートを行うことが主な取り組みですか?

竹本直樹 はい、そうです。

鶴岡章吾 ポニポニや有明高専と連携した場面も多かったと思います。具体的にどのような関わりがあったのでしょうか?

竹本直樹 これまで私たちは、まち作りの一環として自治会を大切にしてきました。有明高専の正木先生たちには、新たな自治会形成のミッションがあり、私たちはその取り組みに寄り添う形で関わりました。

鶴岡章吾 コミュニティを新たに作り直したのですか?

竹本直樹 そうです。今までは、数棟ごとに班があり、それらをまとめたものとして大きな自治会がありました。それを3棟に切り分け、暮らす人たちもごろっと変わり、その中で新しく自治会を形成したのです。建物と同じように、自治会を一度こわして、もう一度つくり直したので、自治会が動き出すまでの間は、月に1、2回の話し合いの場に住民の方々と出席して支援しました。

鶴岡章吾 そこでは、どのような話をされたのでしょうか?

竹本直樹 今月もありますが、「夕涼み会」というお祭りをしたり、継続してワークショップを開催しています。中には建築の当初から数えて、50年近く暮らしている人もいます。すると、新しいコミュニティの想像がつかなかったり、新しい家の想像がつかなかったりします。

鶴岡章吾 昔から住んでる人たちにとっては、建物も環境もシステムも変わりますから、大きな変化に心がついていかないのですね。

竹本直樹 実家がなくなってしまうような心境の方もいらっしゃいます。好きな地域に希望を持って引っ越すこととは異なり、ダメージがとても大きかったと思います。古くなって仕方がないとわかっていても、それに対するもがきや、いき場のない怒りなどの、どこに投げたらいいのかわからない感情を、誰かがしっかり受け止めないといけません。目をそむけていては、その人たちが行き場所をなくしてしまいます。ここにしっかり向き合ったのが、今回の事業の大枠だと思います。

鶴岡章吾 その中で悩んだり、答えがわかったわけじゃないけれど、すっきりするような、心の変化はありましたか?

竹本直樹 ずっとモヤモヤしています。答えは全く出ていませんが、住民の方と関わり合う中で、人との向き合い方が、特に私の場合は、スタッフとの向き合い方が、うまくなったかもしれません。私たちが支えていたようで、実のところは、住民の方々が私たちを育ててくれたようにも感じます。

鶴岡章吾 人と人が向き合う中で「気づき」を見出して、他の人たちと接するときも、その「気づき」が接し方として自然と出てくる感じでしょうか。これまでも継続していて、これからも大切にしていきたいことはありますか?

竹本直樹 ご近所の人たちとの繋がりが切れないようにすることです。ご近所の人たちが、単に見守るよりも一歩踏み込んで、「今日もお元気そうですね」と声かける関係があるのに、介護サービスが始まった途端、「あそこはデイサービスの車がお迎えをしてるから、もう手離していいね」と繋がりが切れてしまうことがあります。これは介護業界の闇です。いいことをしているつもりが、自己満足になっているのではないか、というモヤモヤを抱えていました。この状態をどうにか戻さなければならないと思っています。この事業を通じて、私たちのデイサービスの車がご近所とのつながりを遮断しないように、私たちがご近所とも繋がっておくことがとても大事だとわかったのです。

鶴岡章吾 むしろ逆効果になるときもあるのですね。

竹本直樹 緩くでもいいので、常に繫がりが保たれていてほしいのです。その人だけを考えるのではなく、ご近所の人と会ったら挨拶するような繋がりが、途絶えてはいけないと思っています。いずれは皆さんも老いて、介護サービスが必要になります。そのときのための保険として、私たちが地域と関わり合いをもっていることが大切です。私たちは、特養という入所施設を運営していますが、入所した時が初対面になることが多いのです。入所以前からその人のことを知っておく、というポニポニの考え方にとても共感しています。

鶴岡章吾 その人を入所前から知っていることは、大事ですね。その人が何をしたいのかあらかじめ知っていれば、既存のサービスをあてはめることとは違うアプローチが取れます。

竹本直樹 セルフサービスをしっかり傍に寄せて、自立を促していくことが大切です。私たち職員も「してあげてる」という感覚が抜けていません。「自分がサービスを受ける側だったらどうか?」「してもらっていると感じるのではないか?」「余計なお世話ではないか?」など、こうした観点をしっかり職員に自覚してもらいたいのです。繫がりがあり、以前から知っていることで、その人の感覚をよりクリアに感じることができます。これはすごく大事です。このようなことが実現していけば、特養が地域に根付き、私が掲げていた「開かれた特養」に向かって前進できると思っています。

鶴岡章吾 モヤモヤを抱えてる人たちが、市営高泉住宅の事例を知ることで、少しでもモヤモヤが解消され、試行錯誤していくことができるとよいと思います。抱え込むことが解消されそうな気がしますね。

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